Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “星降る夜に”
 


 「…お、流れた。」
 「わわ、ホントですねvv」

漆黒の天幕には、
針で突いたような無数の星々がばらまかれており、
今宵の月はずんと細いので、
その隙間を擦り抜けるように翔る流星も、
光り負けもせずのよく見えて。
一応の寒さ除け、羊の毛のしょおるというのを敷き、
濡れ縁に腰掛けているのは、
京の都の宮廷にて、国事を司る神祗官補佐をお務めの、
蛭魔妖一氏の家人の皆様で。
秋もようよう深まりて、
陽が暮れるのもあっと言う間と早ようなり、
そんなせいもあってのことか、
虫の声も聞かれぬほどに 朝晩の冷え込みが進んでもいて。
そうともなれば、尚のこと、
一般の民草の皆様は早寝を決めるし、
灯明に事欠かぬよな権門などという層は層で、
更夜と言えば、夜這いか あるいは
何かしらの謀議への寄り合いかに勤しんでいて忙しく。
夜更けに夜空を見上げるなんて酔狂は、
月見を境に ずんと減るものだから。
実は時々 星が降ったりもするのだなんて、
知ってる人は少ないに違いなく。

 「こんなに星が流れるなんて、
  もしかして何かの前兆なのでしょうか。」

日頃も、蛭魔が特別な御用があってお出掛けになられる晩以外は、
子供は早く寝なさいと、夕餉を終えればすぐという勢い、
とっとと下がれと寝間へ追い立てられるのが常の書生くんが、
今宵は随分と遅くまでの夜更かしへ、
お前も付き合いなさいと言われての“星観”で。

 「まあ、もっとでっかくて
  はっきりくっきりした尾を引く流星なんかだと、
  朝廷がどうかなるよな前兆かも、なんて、
  それなりの古書に記されてたりもするけどな。」

彗星つってな、こんな風に眸を凝らさずとも観られっから、
そりゃあ たっくさんの奴らが目撃しもして、
当時は大騒ぎになったらしいと。
そういう記載のある古書をさすが知っているらしい蛭魔が、
それにしては てんで可笑しいと言わんばかり、
細い手首をあらわにし、後ろ手に手をついての
背後へやや身を倒して 夜空を見上げた格好のまんま、
鼻で笑い飛ばすような言い方をするものだから、

 「???」

そんなそんな、朝廷への障りだなんて、
途轍もない奇禍が降りそそぐに等しい大難なのではと、
怪訝そうな顔をする瀬那だったが、

 「考えてもみなよ。
  それが、直接観た者はもう息絶えてるほど、
  何十年も前のことだとしても、だ。
  本当にそうまで どえらいことへの前兆だというのなら、
  もちっと天文の技官は増やされてて良いんじゃね?」

 「あ……。」

その年の豊饒とか国政の行方を、
真剣本気かどうかはともかく、
国の儀式として卜占にて見通そうとするよなくらいだ。
そんなものが空を翔るのなんて、
絶対に見落としてなるものかとばかり、
も少し真剣に構えていいんじゃね?と言いたいらしい蛭魔であり。

 「じゃあ…。」

 「呪いを禁じるなんて法も 実をいや、
  そんな覚えのない奴へ“国家転覆を企んでいたな”と持ってって
  濡れ衣着せて無理から追い詰める謀略の種にするためなんだろし。」

根拠のないことなのですねと、
ちゃんと飲み込みの早い答えを出しかかってたお弟子だというに。
それを遮るようにして、
唐突にとんでもなく恐ろしいことをペロッと言い出すお館様。
爆弾発言もはなはだしい過激さへ、
ひぃいと座ったまま後ずさったセナくんへ、

 「仏教を広めた開祖様はな、
  占いを 人心を惑わすだけだと禁じてらしたというぜ?」

 「こらこら、無駄に怖がらすな。」

真面目で賢い良い子であるほど、
それが常識のはずだった通説を引っ繰り返されるのが、
地盤や基礎をでんぐり返されることに通じて、
混乱するし おっかないこと この上なくて。
今様に言って、ゲシュタルト崩壊を起こしたらどうすんだと、
黒髪の侍従殿が庇うように口を出したところへ、

  さわ…っ、と

サザンカの葉をかすかに鳴らして吹き来た夜風が、
何やら白いものを運び来て。

 「…お。」

どうやら蛭魔が、
昼のうちに どこやらへ仕掛けて来たらしき式が、
何かを切っ掛けに発動したらしく。

 「チッ、空振りであればと思うておったに。」

妖しの存在が迷い出て来た証しでもあり、
舌打ちしつつも立ち上がると、
すぐそばの広間の文机から、
咒弊の束を詰めた錦の袋を手に取る彼で。

 「ちび、留守を頼むぞ。」
 「はいっ。」

狩衣を素早く着付け、濡れ縁からそのまま降り立てば、
葉柱が心得たとばかり、差し出された手を取り、
あとの手にて向背に亜空への入り口を呼び招く周到さ。
それほどに、距離があっての、
だが速攻で掛からねばならぬ案件だったらしくって。

 “そんな事案を前にして…。”

セナくんをからかい半分、
彼なりの教えを傾けるよな、
そんな余裕もあった蛭魔であったのが、
セナには感嘆しきりの凄技で。

 “ボクには まだまだ遠いなぁ…。”

博識なことも、そんな別ことを並行させておれた、
集中を切らさずにいられた度量の大きさも。
妖異などという存在と相対す以上、
自分にも必要になるのかなぁと痛感しつつ。
ほうと肩から力を抜けば、
優しい気配が寄り添うて、
その小さな肩をくるむようにし、暖めてくれるのが判る。

 “…ありゃ。////////”

守護の武神の無言の優しさに頬染めて、
振り仰いだ空を、またもや翔った星の矢が一つ……。





    〜Fine〜  14.10.26.


  *平安時代の秋の夜長というと、
   灯明の油なんて途轍もなく高価だったでしょうから、
   一般市民はとっとと寝てたと思われ。
   (その代わり、朝は早起きしたんでしょうね。)
   だからこそ星空もそれは綺麗に見えたでしょうに、
   学者がたまにしか見上げなかったんでしょうね、勿体ない。


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